「広告代理店に丸投げ」の時代が終わろうとしています。
2025年、広告業界に走った衝撃――それが「楽天ショック」です。楽天グループが広告制作・運用を本格的にAIで内製化したことを皮切りに、RIZAPグループなど大手企業が次々と「脱・代理店」へと舵を切り始めました。
この記事では、なぜ今「AI内製化」なのか、その具体的なメリットとリスク、そして私たち実務家がどう向き合うべきかを深掘りします。
「楽天ショック」とは何か?
「楽天ショック」とは、日本経済新聞などが報じた広告業界の構造変化を指す言葉です。
発端は、楽天グループが広告の制作や運用プロセスに自社開発のAIを導入し、業務を劇的に内製化させたこと。これに続き、RIZAPグループも広告制作の約8割をAIによる内製に切り替えました。楽天グループ自身は楽天市場などの自社媒体の広告運用が中心ですが、RIZAPなどの広告主企業における「内製化」は、Google広告やMeta広告(Facebook・Instagram)などの外部プラットフォーム運用も対象に含まれます。
これまで広告主(メーカーやサービス提供者)は、専門的なノウハウを持つ広告代理店に制作や運用を委託するのが通例でした。しかし、GoogleやMetaの自動入札機能の進化と、高性能な生成AIの登場により、「社内でやったほうが速くて安い」というパラダイムシフトが起きています。
結果として、大手ネット広告代理店(サイバーエージェントやオプトなど)は減収やビジネスモデルの転換(運用代行から内製化支援へ)を迫られる事態となりました。
参考:ネット広告に「楽天ショック」 AIで制作・運用、RIZAPは8割内製 - 日本経済新聞
なぜ企業はAI内製化に走るのか?
最大の理由は「スピード」と「データ活用」です。
RIZAPの事例:即日改善のスピード感
RIZAPの田牧執行役員が「一番のメリット」と語るのがスピードです。 代理店経由では、バナー1枚の修正に数日かかることも珍しくありません。「指示出し→修正→確認→再修正」のラリーが発生するからです。 しかし内製化すれば、朝の数値を見て、その場でAIに指示し、昼には新しいクリエイティブを配信できます。このPDCAサイクルの圧倒的な速さが、成果に直結します。
楽天の事例:IDデータを活かした高精度ターゲティング
楽天には1億以上の「楽天ID」に基づく膨大な購買行動データがあります。 外部の汎用的なAIではなく、自社のファーストパーティデータを学習・連携させたAIを使うことで、「誰に・いつ・どんな表現が刺さるか」を恐ろしい精度で予測・生成できます。これは外部の代理店には真似できない芸当です。
【比較表】代理店委託 vs AI内製化
従来の「代理店委託」と、AIを活用した「内製化」の違いを整理しました。
| 項目 | 代理店委託 (従来) | AI内製化 (現在) | 備考 |
|---|---|---|---|
| コスト | 高い (マージン20%〜など) | 低い (ツール代 + 人件費) | 媒体費を純粋に広告に回せる |
| スピード | 遅い (数日〜数週間) | 爆速 (数分〜数時間) | 市場の変化に即応できる |
| クオリティ | プロ品質 (安定的) | 変動あり (担当者のAIスキル依存) | AIの進化で差は縮まりつつある |
| ノウハウ | 代理店に蓄積 (ブラックボックス) | 自社に蓄積 | 事業理解の深さが強みになる |
| リソース | 担当者の工数は少ない (丸投げ可) | 担当者の工数が必要 | 運用担当者の育成が急務 |
実務で直面する「落とし穴」とトラブルシューティング
「じゃあ明日から全部AIで!」と意気込むのは危険です。現場で発生しがちなトラブルと解決策をまとめました。
1. 「何を作ればいいかわからない」問題
症状: 画像生成AIを導入したが、プロンプトが書けず、平凡な画像しか量産できない。 解決策:
- 「勝ちパターン」の言語化: 過去に成果が出た広告の要素(色、構図、コピーの強さ)を分解し、テンプレート化する。
- 楽天AI for Businessなどの特化ツール: 汎用AI(ChatGPTやMidjourney)ではなく、マーケティングに特化したツール(Rakuten AI for Businessなど)を検討する。
2. 「法務・コンプラ違反」リスク
症状: 生成された画像が著作権を侵害していたり、薬機法・景表法に抵触する表現を含んでしまう。 解決策:
- チェック体制の維持: 「作る」のはAIでも、「承認」は必ず人間(法務担当や熟練マーケター)が行うフローを崩さない。
- 商用利用可のモデル選定: Adobe Fireflyなど、権利関係がクリーンな学習データを使ったAIモデルを採用する。
3. 「誰がやるの?」人材不在
症状: 従来のマーケターは「発注」が仕事だったため、実際に手を動かすスキルがない。 解決策:
- リスキリング: マーケターに「プロンプトエンジニアリング」や簡易的なデザインスキルの研修を行う。
- ハイブリッド運用: 最初から100%内製にせず、クリエイティブの「種」はAIで作り、仕上げや運用調整は一部プロ(代理店やフリーランス)の力を借りる「内製化支援」を受ける。
まとめ:マーケターは「発注者」から「操縦者」へ
「楽天ショック」は、単なるコストカットの話ではありません。「事業を一番理解している人間が、最強の武器(AI)を使って直接顧客に語りかける」という、マーケティングの本質への回帰です。
すべてを内製化する必要はありませんが、AIを使って「何ができるか」を知らないままでは、競合他社のスピードに置いていかれるでしょう。まずはバナー1枚、キャッチコピー1案から、AIとの協業を始めてみませんか?