2025年、デザイン業界最大のニュースといえば間違いなくFigmaの新規株式公開(IPO)でしょう。
「Adobeによる200億ドルの買収」が破談になったあの日から約1年半。Figmaは単独での上場を選び、ニューヨーク証券取引所(NYSE)にティッカーシンボル「FIG」としてデビューしました。
しかし、その株価の動きはまさにジェットコースター。 上場初日の爆発的な高騰から一転、現在は「え、ここまで下がるの?」という水準まで調整が進んでいます。
この記事では、Figmaの上場から現在(2025年末)までの激動の動きを振り返りつつ、「結局、Figmaという会社は今後どうなるの?」「AIに仕事を奪われる側なの? 奪う側なの?」という疑問について、客観的なデータと最新のAI戦略から解説します。

1. 激動のIPOドキュメント:熱狂と急落
時計の針を少し戻して、2025年7月31日。Figmaの上場初日は、市場の歴史に残るような熱狂に包まれました。
予想外の「爆上げ」スタート
事前の公募価格は1株あたり33ドルに設定されていました。 しかし、いざ蓋を開けてみると……
- 初値:85ドル(いきなり2.5倍!)
- 初日終値:115.50ドル(公募価格比 +250%)
- 初日の時価総額:約500億ドル
Adobeが買収しようとした金額が200億ドルでしたから、市場は「Adobeの評価額は安すぎた! Figmaにはもっと価値がある!」と叫んだことになります。この時点では、誰もがFigmaの輝かしい未来を信じて疑いませんでした。
そして「公募価格」へ逆戻り
しかし、宴は長く続きませんでした。 2025年12月現在、Figmaの株価は37ドル〜38ドル付近で推移しています。
ピーク時の140ドル台から見れば約70%の下落。ほぼ公募価格(33ドル)の水準まで戻ってきてしまった形です。時価総額も約190億ドルとなり、奇しくもAdobeの買収提示額(200億ドル)とほぼ同じ水準に落ち着きました。
「なんだ、やっぱりAdobeの評価が正しかったのか」 市場は今、冷静にそう判断し始めています。
2. なぜ株価はここまで下がったのか?
業績が悪化したわけではありません。むしろFigmaの決算は絶好調です。 それなのに株価が下がったのには、いくつかの明確な理由があります。
① ロックアップ解除による売り圧力
最大の要因は需給バランスです。IPOから数ヶ月が経過し、これまで株を売ることを禁止されていた初期投資家や従業員の制限(ロックアップ)が、2025年11月に解除されました。
長年Figmaを支えてきたVCや、株を持っていた古参社員が一斉に利益確定の売りに動いたことで、市場に株が溢れ、価格が押し下げられました。これはIPO銘柄にはよくある「通過儀礼」です。
② 「AI代替リスク」への懸念
もう一つは、投資家心理の変化です。 2025年後半、株式市場では「AIバブル懸念」が囁かれました。
「生成AIがあれば、UIデザインなんて人間がやらなくても良くなるのでは?」 「Figmaのようなツールは、AIに取って代わられる側なのでは?」
AIによるデザイナー代替論が広まるにつれ、投資家たちがSaaS企業への投資に慎重になったことも影響しています。
3. 数字で見るFigmaの「本当の実力」
株価は下がりましたが、Figmaというプロダクト自体の成長は止まっていません。 公開された決算データを見ると、その強さが浮き彫りになります。
- 売上高成長率: 前年比 +40%超(SaaS企業としては驚異的)
- 粗利率 (Gross Margin): 88%〜90%(ソフトウェアビジネスの理想形)
- 年間経常収益 (ARR): 10億ドル突破(2025年Q3見込み)
特筆すべきは、Adobeからの「手切れ金」10億ドルを元手に、財務基盤が盤石であることです。借金をして無理な拡大をしているわけではなく、潤沢なキャッシュを持って次の手を打てる状態にあります。
4. Figmaの逆襲:AIは「敵」ではなく「武器」
投資家の不安である「AIに仕事を奪われる」という点に対し、Figmaは明確な回答を出しています。 それが「AIによる機能拡張(AI as a Feature)」です。
Dev Mode × MCP AI の衝撃
Figmaが今、最も力を入れているのがエンジニア向けの機能「Dev Mode」です。
ここに搭載されたMCP AI (Machine-Collaborative Programming AI) は、単にデザインからコードを書き出すだけではありません。 デザインシステムやトークンを理解し、「そのチームの流儀に合ったコード」を生成してくれます。
- これまで: 画像解析でなんとなくコード化(精度低い)
- これから: デザインデータの構造を理解してコード化(実用レベル)
これにより、Figmaは「デザイナーのツール」から「エンジニアとの共通言語(OS)」へと進化しようとしています。GitHub CopilotなどのコーディングAIとも連携し、開発フロー全体を支配しようとしているのです。

新機能「Figma Make」「Figma Weave」
さらに、プロトタイピングや動画生成の領域でもAI活用が進んでいます。
- Figma Make: テキストプロンプトからUIドラフトを一瞬で生成。
- Figma Weave: 買収した技術を統合し、デザインデータ内で動画や動的コンテンツを生成・編集。
これらは、デザイナーを不要にするものではなく、「デザイナーの単純作業をゼロにする」ための機能として実装されています。
5. 日本のユーザーへの影響と価格
最後に、私たち日本のユーザーに関わる情報です。 Figmaにとって日本は世界でもトップクラスに重要な市場。円安が進む中でも、日本円価格は比較的良心的な設定が維持されています。
| プラン | 概要 | 価格 (月払い) |
|---|---|---|
| Starter | 無料プラン | ¥0 |
| Professional | 個人・小規模チーム向け | ¥3,000 / 月 |
| Organization | 分業が進んだ組織向け | ¥8,300 / 月 |
| Enterprise | 大規模なセキュリティ管理 | ¥13,600 / 月 |
※価格は2025年12月時点の参考価格です。 ※Professionalプランは年払いにすると月換算 ¥2,400 程度とお得になります。
まとめ:Figmaは「買い」か?
2024年のAdobe買収破談は、結果としてFigmaをより強く、より自立した企業へと成長させました。
現在の株価低迷は、あくまで「市場の期待値調整」に過ぎません。 Webやアプリを作る需要がなくならない限り、そしてAI開発の基盤として「構造化されたデザインデータ」が必要とされる限り、Figmaの優位性は揺るがないでしょう。
投資家としては「今が底値(バーゲンセール)」かもしれませんし、 ユーザーとしては「安心して使い続けてOK(サ終の心配なし)」と言えます。
AI時代、Figmaは単なるデザインツールではなく、「プロダクト開発のオペレーティング・システム」としての地位を確立していくはずです。