働く 2025-12-11

【Web制作】クライアントへの「原稿依頼」ベストプラクティス(手戻り削減の決定版)

Web制作の進行において、ディレクターやエンジニアが最も頭を抱えるのが「クライアントからの原稿提出待ち」フェーズです。

「原稿がなかなか来ない」 「やっと来たと思ったら、デザインと文字数が合わない」 「修正依頼が五月雨式に来て、いつまで経っても確定しない」

こんな経験、誰もが一度はあるのではないでしょうか。 特に修正のループが発生すると、制作スケジュールは大幅に遅延し、お互いに疲弊してしまいます。

今回は、そんな原稿トラブルを未然に防ぎ、クライアントに気持ちよく作業してもらうための「原稿の渡し方・頼み方」のベストプラクティスをご紹介します。

結論から言うと、「ワイヤーフレーム(WF)確定後に、Wordで“迷わないテンプレート”を渡す」。これに尽きます。

1. 原稿を依頼する「タイミング」がすべて

まず重要なのが、いつ原稿を依頼するかです。 よくある失敗パターンは、以下の2つを同時にやってしまうこと。

  • × ワイヤーフレーム(構成案)の提出
  • × 原稿の執筆依頼

これを同時に行うと、クライアントは「構成のチェック」と「文章の作成」という2つのタスクを同時に抱えることになります。 結果、何が起きるかというと「混乱」です。

推奨:WF確定後に依頼する

ベストなタイミングは、間違いなく「ワイヤーフレーム(WF)のOKが出た後」です。

WFでページの構成、見出しの並び、画像の配置場所が確定していれば、クライアントは「どこに」「何を」「どれくらいの量」書けばいいかが明確になります。 「枠」が決まってから中身を入れてもらう。この順序を守るだけで、無駄な書き直しや手戻りは激減します。

2. ワイヤーフレームには「方向性を示すサンプル」を入れる

ワイヤーフレーム(WF)を提出する際、テキストエリアを空欄や「テキストが入ります」だけで済ませていませんか? 実は、WFの段階で「サンプル原稿」を入れておくことが、後の原稿作成をスムーズにするための隠れた重要ポイントです。

「空の枠」では伝わらないニュアンス

ワイヤーフレームは見た目がシンプルなので、クライアントは「ここに何を書くページか?」を完全にはイメージできません。 その結果、「想定より文章が長すぎる」「トーンが合わない」といった“方向性のズレ”が発生し、後の修正作業が重くなります。 文章のトーン(硬い/柔らかい)や深さといった“ニュアンス”は、空の箱だけでは絶対に伝わらないからです。

必要なのは「方向性を示す」最小限のサンプル

ただし、WFの段階で全ての原稿を作り込むのはNGです。時間がかかりますし、手戻りのリスクも高いからです。 ベストなのは、以下のような「最小限のサンプル」を入れておくことです。

▼ 見出し(h2):サービス概要 (ここには「どんなサービスか」を2〜3行で説明する短い文章が入ります) 例:「当社の○○サービスは、△△でお悩みの企業様向けに□□を提供しています。」

▼ 見出し(h2):選ばれる理由 (箇条書きで3〜5項目程度が入ります) 例:・スピーディーな対応 ・地域密着サポート

ワイヤーフレームにおけるサンプルテキストの例

これがあるだけで、クライアントは「ここはこういう文章が入るのか」と瞬時に理解でき、原稿作成の迷いがなくなります。 「WFは真っ白の枠だけ」という状態は避け、必ず方向性を示唆するダミーを入れておきましょう。

3. 形式は「Google Docs」が理想だが、「Word」が現実解

次に悩ましいのが、どのツールで原稿を書いてもらうかという問題です。

理想は「Google Docs」

私たちWeb制作者にとっての理想は、間違いなく Google Docs です。

  • リアルタイム共同編集: 常に最新版が共有でき、ファイルの先祖返りが起きない。
  • 共有が楽: URLを一本送るだけ。
  • コメント機能: 修正指示や会話がスムーズ。

もしクライアントがIT企業やスタートアップで、Google Docsに慣れているなら、迷わずこれを使いましょう。それが最速です。

現場では「Word」が最強

しかし、実際の制作現場(特に一般企業や官公庁、伝統的な業界)では、Google Docsはハードルが高いケースが多々あります。

  • セキュリティポリシーでGoogleドライブにアクセスできない
  • そもそもGoogleアカウントを持っていない
  • 使い慣れていないツールへの抵抗感がある

無理に新しいツールを強要してストレスを与えるよりは、「慣れ親しんだWord(docx)」でやり取りする方が、結果として原稿回収はずっと早くなります。 Wordの「変更履歴の記録」「コメント機能」を使えば、修正のやり取りも十分にスムーズに行えます。

テキストファイル(.txt)は製作者にとっては加工しやすくて良いのですが、クライアントにとっては装飾(太字や赤字)が使えず、指示が出しにくいため不親切になりがちです。

4. 「何を書けばいいかわからない」をなくすテンプレート

「原稿をお願いします」と言って真っ白なファイルを渡すのはNGです。 クライアントはプロのライターではありません。白紙を前にするとフリーズしてしまいます。

必ず「項目を埋めるだけのテンプレート」を用意しましょう。

原稿テンプレートの構成例

Wordファイルで、ページごとに以下のような項目を作っておきます。

▼ ページタイトル (例:事業紹介|○○株式会社)

▼ 見出し(h2) ここに見出し案を書いてください:[ ]

▼ 本文

  • 箇条書き
  • 文章
  • 補足事項 など自由に記載してください。

▼ 画像 使用したい画像を貼り付けるか、ファイル名を記入してください。 キャプション(写真の説明)があれば書いてください。

▼ 注意事項

  • 個人情報の掲載可否は確認済みですか?
  • 公開したくない情報があれば明記してください。

原稿作成用テンプレート(Word)の構成イメージ

このように「書く場所」が用意されているだけで、心理的ハードルは大幅に下がります。

5. 成功のカギは「サンプル原稿」にあり

テンプレート以上に効果的なのが、「サンプル原稿」を入れることです。

「ご挨拶の文章を書いてください」よりも、 「(例)創業以来、私たちは〇〇という理念のもと……」 というダミーテキストが入っている方が、クライアントは「ああ、こういうトーンで書けばいいんだな」と直感的に理解できます。

  • 迷いを減らす: サンプルを真似して書けばいいので、作業スピードが上がる。
  • クオリティの担保: こちらが求める文章の長さや雰囲気を、暗に伝えることができる。

サンプルがあるだけで、原稿作成のスピードは体感で2倍以上になります。

6. 「完璧じゃなくていい」と伝える安心感

最後に、依頼時のコミュニケーションについて。 真面目なクライアントほど、「完璧な原稿を出さなきゃ」と気負ってしまい、筆が止まりがちです。

依頼の際は、必ずこう添えましょう。

「誤字脱字や細かい表現の統一は、こちらでWeb用に調整・チェックします。ですので、まずは内容の羅列や箇条書きレベルでも構いません!」

この「書きやすくなる安心感」を与えることが重要です。 「仕上げはプロがやってくれる」と思えれば、とりあえず書き出して送ってくれるようになります。まずは素材をもらうこと。これが最優先です。

まとめ:スムーズな原稿回収のフロー

もっとも手戻りが少なく、スムーズな原稿回収のベストフローは以下の通りです。

  1. WF確定: 画面構成を固める(この時点で“方向性を示すサンプル”を入れておく)。
  2. テンプレート送付: ページごとのWordファイル(またはGoogle Docs)を渡す。
  3. サンプル完備: 「書き方の見本」を入れておく。
  4. 心理的ハードルを下げる: 「誤字チェックはこちらでやります」と伝える。
  5. 回収・整形: 制作側でWeb用にリライト・整形して実装へ。

原稿作成は、クライアントにとって最も重いタスクの一つです。 その負担を「形式」と「伝え方」でいかに減らせるか。それが、プロジェクトを成功に導くディレクター・制作者の腕の見せ所です。