「サーバーの更新時期なんて、3 年後も覚えているわけがない」
ある日、クレジットカードの明細を見て血の気が引きました。 「さくらのレンタルサーバ 138,600 円」
「えっ、何これ?」と思わず声が出ました。 確認すると、3 年前にクライアントのために代理契約した「さくらのレンタルサーバ ビジネスプロ(36 ヶ月一括)」が、自動更新されて決済完了していたのです。
サーバーが止まらなかったので、サイト運営という意味では「事故」ではありません。 しかし、受託制作ビジネスとしては「大事故」です。
なぜなら、「まだ更新するかどうかも確認していないのに、勝手にこちらのカードで立て替えてしまった」から。 もしクライアントが「実は今月で閉鎖しようと思ってた」と言ったら? 「え、更新お願いしてないですよね?」と言われたら?
この 14 万円は、誰が被るのでしょうか。
この記事では、Web 制作会社やフリーランスが陥りがちな「サーバー代理契約の罠」と、それを防ぐための「現実的な運用ルール」について共有します。
なぜ「14 万円の自動引き落とし」は起きたのか?
今回のケースは、個人の不注意というよりも「事故が起きるべくして起きる構造」になっていました。 要素を分解すると、完全に「詰み」の形をしています。
1. 「代理契約」という構造
本来、サーバーやドメインは「表札」と「土地」のようなものなので、クライアント本人が契約すべきです。 しかし、現実にはこうなります。
- クライアント:「よく分からないから全部お願い」
- 制作会社:「説明するより自分がやった方が早い」
- お役所・公的機関:「カード決済ができないので、請求書払いで代理店にお願いしたい」
こうして、「契約名義は制作会社(自分)、支払いは立て替え」という一番リスクの高い状態が生まれます。
2. 「36 ヶ月一括」が記憶を消す
レンタルサーバーは長期契約ほど安くなるため、コスト削減のために「36 ヶ月(3 年)一括」を選ぶことが多いです。 さくらのレンタルサーバ ビジネスプロの場合、36 ヶ月一括で約 14 万円。
しかし、3 年後の同じ日に、自分がその案件の担当をしている保証はありますか? 引き継ぎ資料に「202X 年 Y 月 Z 日に自動更新あり」と赤字で書いてありますか? 人間は、3 年前のことなど覚えていません。
3. 「メール通知」は埋もれる
もちろん、サーバー会社からは「更新のお知らせ」メールが届きます。 ですが、制作会社のメールボックスには、契約している大量のサーバーやドメインからの通知、営業メールが毎日届きます。
「【重要】更新のお知らせ」というメールが、他の 100 通のメールに埋もれてスルーされる。 そして迎えた更新日、システムは無慈悲に14 万円を決済するのです。
結論:「自動更新」は OFF にせよ
この事故を受けて、私は社内の全サーバー契約を見直しました。 そしてたどり着いた結論はひとつ。
「代理契約のサーバーは、原則『自動更新 OFF』にする」
これに尽きます。
「自動更新=安心」ではない
多くの人は「サーバーが止まると怖いから、自動更新にしておこう(安心装置)」と考えます。 しかし、代理契約において自動更新は「自動立て替え発生装置」でしかありません。
-
自動更新 ON の場合:
- 更新日が来る。
- 誰の確認も取らず、勝手に決済される(14 万円)。
- 後から気づいて青ざめる。
- クライアントにおそるおそる請求する(「勝手に更新しました?」と言われるリスク)。
-
自動更新 OFF の場合:
- 更新日が近づく。
- 「サーバーが止まりますよ!」という警告が来る(ここで気づく)。
- クライアントに「更新しますか?」と確認する。
- 更新するなら支払い手続きをする。辞めるならそのまま終了。
「支払う前に必ず確認が発生する(=確認しないと支払えない)」というフローを強制的に作るには、自動更新を OFF にするしかないのです。

「自動更新 OFF」でサーバーは止まらないのか?
「でも、OFF にしててうっかり払い忘れたら、サイトが消えちゃうでしょ?」 これが最大の懸念だと思います。
しかし、ここにも重要な事実があります。 「支払期限が過ぎても、即座にデータは消えない」のです。
さくらのレンタルサーバの「セーフティネット」
例えば今回の「さくらのレンタルサーバ」の場合、仕様は以下のようになっています(※2026 年 1 月時点の記事執筆時)。
- 未払い発生時: サービスは「一時停止」される(サイトが見られなくなる)。
- データ削除: 支払い期限から2 ヶ月後。
そう、「サイトが止まる(一時停止)」から「データが消える(物理削除)」までには、2 ヶ月の猶予があるのです。
もしメールを見逃してサーバーが止まったとしても、クライアントから「サイトが見れない!」と電話が来て気づけば、その場で支払えば即復旧できます。 サーバーが一時的に止まるのは「ボヤ」ですが、確認なしに 14 万円払って更新してしまうのは契約トラブルという「大火事」になりかねません。
代理契約のリスク管理としては、「勝手に更新されるリスク」>「一時停止するリスク」です。
安全なサーバー代理契約の運用ルール
これらを踏まえた、制作会社・フリーランスのための「サーバー契約 防御ワークフロー」を提案します。
1. 原則:クライアント契約にする
面倒でも、Zoom で画面共有しながらクライアント自身のカードで契約してもらいましょう。これが最強かつ唯一の完全な解決策です。 「アカウント情報は御社で管理してください」と言えば、セキュリティ意識の高い会社として信頼もされます。
2. 例外(代理契約):自動更新は OFF
どうしても代理契約が必要な場合は、契約時に「自動更新 OFF」に設定します。
3. メールフィルターで「地雷」を検知
自分宛てのメールソフトで、サーバー会社からの「重要通知」だけを抽出するフィルターを作ります。 Gmail なら、件名に「更新」「期限」「請求」が含まれるメールには、赤いラベルを付けて受信トレイのトップに表示させる設定をします。
4. クライアントとの事前合意
代理契約をする際は、以下の文言をメールで送っておきましょう。
「サーバー・ドメインの更新時期(〇年〇月頃)になりましたら、弊社より更新のご案内をお送りします。ご入金確認後の更新手続きとなりますので、期限までにご確認をお願いいたします。」
これで、「勝手に更新された」も「いつの間にか止まってた」も防ぐことができます。
まとめ:その「親切心」が仇になる前に
「面倒くさいだろうから、やってあげよう」 その親切心で始めた代理契約が、数年後に自分の首を絞めることになります。
14 万円の引き落とし通知を見た時の冷や汗は、もう二度とかきたくありません。 もし皆さんの手元に「なんとなく自動更新にしている代理サーバー」があったら、今すぐ設定画面を開いてください。 そして、勇気を持って「自動更新しない」にチェックを入れましょう。
それが、未来の自分とクライアントとの信頼関係を守るための、プロとしての設定です。